ニンジンの欠片を宙にかざすと、ウサギたちが寄ってくる。白、クロ、焦げ茶、グレー、そして何色かと一言では表現しにくいヤツ。ウサギにも色んな色があるものだと感心させられる。それに性格もニンジンをチラつかせると、すぐに寄って来るヤツ、なかなか警戒して伺ってるヤツ。性格も様々だが、愛くるしい姿をしてる。ニンジンに貪りついている時だけ、そいつらに触れることができる。
もし、こいつらの先祖が大東亜戦争時代からのものだったら、ちょっとした感動である。何故なら、GHQの支配下で、この島は草木は枯れ、沿岸の貝類たちは消滅したのだから。島全体に三センチまで積もるカルキを盛られたわけである。残念ながら、このウサギたちは本土からやってきたウサギらしい。
広島県竹原市大久野島。戦時中は地図から存在を消された島である。国家秘密に値するものを作っていた島だからである。もっとも哀しいものを……。
それは毒ガスである。大東亜戦争に備えてこの島で毒ガスが作られていた。当時にもウサギがたくさんいた。勿論、意図があった。ガス漏れが瞬時に分かるようにウサギたちが放たれていたわけである。
ここには哀しい廃墟が存在する。毒ガス貯蔵庫。老朽化した、鉄骨が剥き出しになったコンクリートの門の向こうに、かつて毒ガスが存在した。立ち入り禁止区域になっているが、立ち入り禁止になってなくても、迫力がありすぎて足がすくむ。まるで門構えが髑髏のようだ。見えないその先には、とんでもないものが存在していそうな恐ろしいエネルギーを持った場所。パワースポットという言葉があるが、その真逆の言葉があるなら、それを贈りたい。
島をもう少し歩いて、毒ガス貯蔵庫の対角上の場所には、毒ガス制作のために稼働していた発電所の廃墟がある。今にも崩れ落ちそうな高いコンクリートの建物に沢山の植物が絡みついている。しかも、その植物たちももう、役目を終えたように色褪せている。
帰りのフェリーの中、タバコを吸おうと、ポケットを弄ったが、どこにも見当たらなかった。きっと大久野島に忘れてきたんだとそう思った。
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